ヒビ割れたマグカップ

長年愛用しているマグカップに大きくヒビが入った。
このカップは私が闘病中、お見舞いに来てくれた高校の友人たちへのお返しとして買ったものの残りだ。
実に30年近く使っていたことになる。

高校卒業後一年間、多摩美と予備校に通いながら抗がん剤治療を受けたことは以前も書いたが、その途中実家を出て一人暮らしを始めた。一年たたずに、母も家を出る。離婚後、父も出る。
私が育った家は、弟を残すのみとなった。全員が一人暮らし、文字通り離散家族だ。
私の自立はこのマグカップとともに始まったと言っていい。
それが先日ついにヒビ割れた。

2か月ほど前から心療内科に通っている。
色々なことがフラッシュバックしてどうにも辛くなってしまった。
幸い自己管理できるレベルと自覚しているため、大事には至らずにいる。薬が効いているのかもしれない。
制作ペースが落ちて不安ではあるけど、今は焦らずゆっくりする時期だと思っている。

大きな悩みや苦しみは時間がたつほどこじらせる気がする。
凝り固まった心に入ったヒビ割れは、粉々に砕け散る前触れだろうか。それとも卵の殻のようにするりと剥けて瑞々しい表層が顔を出すのだろうか。